椀貸し岩

 東春日井郡品野町大字品野字鳥原(瀬戸市)に椀貸し岩と称するものがある。昔浄源寺で人が集まる折に,若し膳椀が不足なれば,住職がこの岩へ行って,膳椀を何人前お貸し下され度しとお願いすると,翌朝必ず願い通り膳椀が取り揃えて岩の上に置いてあったという。さて返す時は元の通りに取り揃えて岩上に置き,お礼を言上すれば其の翌朝には,最早其の膳椀は片付けられてあった。
 所が或る時浄源寺に人集があった時,膳椀を借り受けたが,過って一個を破損したが,不足のまま返したことがある。其れからはこの岩に願い出ても願が叶えられなくなったという。(『愛知県伝説集』 p.69)

解説

 この伝説の伝承地近くには庄内川支流である鳥原川が流れており,膳椀の貸し主は,その流域の霊威かもしれない。「椀貸し」伝説は全国的に分布し,愛知県では三河地方の天竜川,豊川,矢作川の流域に偏在する。尾張地方では,このほか春日井市の鞍が淵,岩倉市の岩塚,東郷町の稲荷社にも「椀貸し」伝説が伝えられている。