子取り池
東春日井郡篠木村大字下原(春日井市)にある子取り池に,次のような伝説がある。今から四百余年前,近くの大草城主に西尾道永という人があった。この人は豪農であったので附近には広い田畑を所有していた。随って田植には多くの人手がいるので,道永はそれを見廻ることにしていた。ある年のこと,幼児を籠の中に入れ,それを池の堤に置いて田を植えていた夫婦があった。所が突然鷲が来て籠の中の子供をさらって行ったが,夫婦は全くそれを知らずに居た。然し道永はそれを見て知っていたが,是れを知らせれば仕事を休むので殊更に黙っていたという。それからその池を子取り池というようになったという。(『愛知県伝説集』 p.18)
■解説
親が赤児を連れて田畑で仕事をしているうちに,鷲に赤児をさらわれるという話は,昔話の「鷲の育て児」という話型に分類され,右の話はその伝説化したものである。この話型は,東大寺建立に尽力し,初代別当となった良弁の伝記として知られるが,「子取り池」の伝説には,さらわれた赤児の成長,親との再会のモティーフはなく,西尾道永の非道さを表す内容となっている。